新入生・高校生向けの研究と教育の自己紹介(中井遼)

【はじめに】

私の専門分野は比較政治学(comparative politics)というものです。「政治はどうあるべきか」という規範的な問題ではなく,「実際どう動いているのか」を知るために,様々な国や時代の政治を歴史的に分析したり,あるいは多国間データや世論調査等を計量的に分析したりする分野です。 必然的に様々な国の政治を扱うため,日本のメディア等では大雑把に「国際政治」とまとめられる事も多いですが,国家「間」に着目する狭義の国際政治学(国際関係論)とは違い,どちらかといえば国・地域の「中」の動きを見るほうに力点がある分野です。

【研究】

その中でも特に私は,大きく3つのテーマを中心に研究を行っています。

①1つ目は,民主主義とナショナリズム・民族問題との,関連性です。社会の健全な利益調整のためには,政党同士の競争や自由で民主的な選挙が不可欠ですが,この競争がかえって偏狭な民族主義をもたらし紛争の原因になることもあります。そもそも多民族国家においていかなる民主政の運用が可能/不可能or有利/不利なのかという古典的な問題もあります。様々な制度・社会状況・効果・現象に関する,細かい検証を積み上げることを課題としています。多国間比較やデータ分析が中心です。

②2つ目は,政党政治や選挙の比較分析,特に東ヨーロッパの政党,選挙・投票行動あるいは政治意識等です。相対的に新しい民主主義国家ですが,だからこそ現れている低い投票率やポピュリスト政党の台頭などが,西欧・北米や日本が抱える政治状況を先取りしていると評す人もいます。また,EUという地域統合の枠内で,統合に向かいたい勢力と自国の独自性を守りたい勢力が,角逐を重ねてきた経緯もあり,国内政治と国際政治の関係性を考える上で非常に面白い対象です。

③3つ目は,いわゆる「バルト三国」と呼ばれる地域,その中でも特にラトヴィアという国に着目して様々な研究を進めています。1つ目と2つ目の関心が具体的に結び付く地域です。テーマ次第で隣国のエストニアやリトアニアの分析もやっています(その延長でエストニアのインターネット投票なども調べています)。当該地域からみれば私は「よそ者」ですが,よそ者目線だからこその強みもあると信じていますし,実際,私の論文が現地の政策提言文書で言及されたこともあります(ちょっとした自慢?です)。

これらに関連するテーマで,小さいながらも新発見をして論文を書いたり学会発表したりするのが私たちの仕事(の1面)です。ちなみに日本で研究していると,地理的制約もあり①→②→③にかけて不利になりそうですが,自分でも意外なことに,いまのところ国際競争で何とか張り合えている(と思う)のは③で,①と②はボチボチといったところです。なかなか想定通りにはいかないですね。だからこそ面白いのですが。

【教育】

北九大法学部の講義では,今のところ「政党政治論」と「地域統合論」の2科目を持っております。上にのべた,私自身の研究テーマとも関連する科目です。広く概説的に理論と実証を紹介するよう努めていますが,前者の科目は理論と計量データ重視,後者の科目は個別事例重視で運用してます。このほか,2019年より基盤教養科目を一つ担当しています(「民主主義とは何か」)。

1年生むけ入門演習では,政治現象を分析・理解するために必要な「因果関係の推論」に関するトレーニングを重視します。ある問題を解決する政策を生み出すためには,その問題の原因が何であるかきちんと推論できないといけません。しかし,「因果関係と相関関係の区別」「交絡要因の排除」など,妥当な手続きすら経ずに行われた推論は,時に無関係な事項を原因と断定してしまいます。それに基づく意思決定は,無意味なだけではなく,時に実態を悪化させる事すらあるでしょう。社会現象分析の方法を学ぶとともに,大学における学びの作法や資料の駆使の仕方,データ分析のテクニックなどを身に着けることを目指します。そのためにも,一定量の課題をこなしてもらいます。

2年以上の演習科目では,比較政治全般に関する関心を持つ学生さんを広く受け入れており,かならずしもご自身の関心がヨーロッパや選挙にある必要はないと考えています。輪読こそ共通の文献を読みますが,学生の個人研究は本当にみなテーマも地域もバラバラです。比較政治の学究による効用として,多様な地域・国家・時代の政治現象を調べ比較することで①政治現象を実証的に分析できる,という面があります。実はそれ以上に②「自分が当然視している事項が全然当たり前ではない」「特殊だと信じていたことが実は普遍的な事だった」という事を知る,という面もあるのではないかとも考えています。自分を取り囲んでいた環境や知識体系が,いかに当たりまえの事物ではないか理解することは,つまらぬ人生を送らぬためには重要な事であるように思われます。

なお1年生の入門演習と2年以上の演習は,私は完全に独立して運用します。ですから,私の1年入門演習を履修していなくとも2年演習の履修選抜で不利になるわけではありませんし,1年入門演習を履修したからといって2年以上の演習に誘導することも致しません。私の演習に限らず,演習は大学の学習上大きなウェイトを占めますので,あまり先輩やご友人の声に流されず(参考にいろいろ聞くのはむしろ良いと思いますが),最後はご自分の判断と信念と意欲でお決めになることを薦めます。

【個人的事項】

私自身は,関西出身の両親から生まれ,北海道の札幌で育ち,関東・東京で青春と学術の時を過ごし,少し前に九州にやってきました。悪くいえば根無し草ですが,そのせいで(おかげで?)日本の中の多様性をそれなりに知っている方かなは思います。とはいえ他方で,中国・九州の事についてはまだまだ知らないことが多く,先輩たる諸君からいろいろ学べればと思っております。

海外経験はそこまで豊富ではありませんが,学会や調査(あるいは個人的旅行)などで20か国ほど訪れたことがあります。安直な「海外では~」といった類の話は嫌いですが(なぜならその大抵が実証的に無意味な比較だからです),小ネタ程度のお話はそれなりに提供できるかもしれません。

大学生活におけるマインドセットとしては,同じ学科の坂本先生が書いたMake Things Happenを読んでもらえればいいと思います。

Designed by Ryo Nakai with support of CSS.Design Sample
Copyright © Ryo NAKAI All Rights Reserved 2006-2019.